「国内の製油所でほぼ作れる」軽油は、どの道を通って届くのか
「国内の製油所でほぼ作れる」という言い方は、軽油の供給を考える入口にはなる。ただし、ここでいう「国内」は、まず製品がどこで精製されるかという意味だろう。原油がどこから来るか、精製された軽油がどの港や道路を通るか、そして地域の仕事場まで何日分が届くのかまでは、この一言からは分からない。
日本の石油供給を考えるとき、原油の輸入と国内の精製は分けて見なければならない。資源エネルギー庁のエネルギー白書が示すように、日本の石油供給は海外からの原油に大きく依存している。国内の製油所で軽油をつくることは、製品を国内で仕上げる工程があるということであって、原料の調達や海上輸送まで国内で完結するという意味ではない。
精製された軽油は、製油所の敷地を出て終わりではない。油槽所や貯蔵施設に移され、地域によっては船で別の港へ運ばれ、そこからタンクローリーなどで給油所、事業所、車庫、農業や漁業の現場へ向かう。製油所と近隣施設を結ぶパイプラインもあるが、それは全国を一本でつなぐ道路のようなものではない。どの港に受け入れ設備があるか、そこから先に代替する道路や船があるかで、同じ国内製品でも届き方は変わる。
この流れを見えにくくするのが「備蓄」という言葉である。国や民間企業が持つ石油備蓄は、供給が途切れたときの時間を稼ぐための重要な仕組みだ。けれども、備蓄があることと、ある地域の事業者がすぐ給油できることは同じではない。貯蔵場所、製品の種類、払い出し設備、船と車の手配、港や道路の通行条件がそろって初めて、在庫は現場で使える。全国の在庫量から、ある町の農家やバス営業所があと何日動けるかを直接計算することもできない。資源エネルギー庁の石油備蓄に関する資料が示す制度と、地域の配送実態の間には、まだ確認すべき距離がある。
地域差は、単純な「都市か地方か」では決まらない。港の規模、油槽所までの距離、道路の迂回路、船の寄港頻度、タンクの容量、天候や海況、そして地域の需要が重なって決まる。離島向けに石油製品の安定供給を支える制度が設けられているのは、製油所から近いか遠いかだけでなく、海上輸送の費用や条件が供給に影響するからだ。だからといって、すべての離島の事情が同じだということにはならない。山間部、半島、港湾都市にも、それぞれ別の入口と代替経路がある。離島の石油製品の安定供給に関する資料は、こうした違いを調べる出発点になる。
軽油の変化を、仕事は一様には受け止めない。長距離を走るトラックは、走行距離と給油の回数が運行の組み立てに直結する。燃料費を運賃に反映できるかという問題だけでなく、どの給油所を使えるか、配送が遅れたときに車両をどう回すかが関わる。農業では、機械を使う季節と作業場所が分散しているため、店頭価格だけでなく、作業の集中期に燃料を確保できるかが重要になる。漁業では、道路沿いの給油所ではなく、港で船に燃料を積めるか、出漁期や海況と補給の予定を組めるかが問題になる。農林水産省の農業経営統計や水産庁の漁業経営に関する統計も、こうした違いを平均値の背後から確認するための資料である。
建設現場では、現場へ移動する車両だけでなく、発電機や重機など、機械の組み合わせと現場の場所が影響する。公共交通でも、ディーゼル車を使うバスと電車では事情が違い、同じバスでも車庫の貯蔵設備や路線の長さによって必要な補給量は変わる。国土交通省の自動車輸送統計は、貨物と旅客を同じ「車両」として一括りにせず、輸送の種類と活動量を分けて見るための手掛かりになる。ただし、こうした統計だけで、特定の事業者がどの程度の在庫を持つかまでは分からない。
ここで、国内精製の意味を小さく見る必要はない。国内の製油所が製品を供給することは、精製能力と調達・輸送の選択肢を持つという点で、供給安全保障の大切な一部である。ただ、それだけで生活への供給が保証されるわけでもない。軽油は、製油所から地域の仕事場まで移動して初めて役割を果たす。その途中にある港、道路、貯蔵施設、配送車両、船、そして季節ごとの需要を一緒に見なければ、脆弱な場所は見えてこない。
次に確かめるべきなのは、「国内で作れるか」だけではない。港や幹線道路が使えないとき、地域ごとに何日分の軽油があり、どの代替港・代替道路から、どの車や船で補給できるのか。さらに、物流、農業、漁業、建設、バスのどこを優先するのか。その地域別の在庫、入口、輸送能力、需要の組み合わせが公開されて初めて、国内精製が暮らしの安心へつながる道筋を具体的に語れる。