効率の分母を誰が選ぶのか――人口・移動・在留・防衛を同じ表にしないために
技術や経済の案を「効率的」と呼ぶとき、最初に問うべきなのは計算結果ではなく、誰が分母と目的を選んだかである。人口、移動、在留、防衛を一つの損得表に入れると、測れるものだけが公共の価値に見えてしまう。
## まず、観測の窓を分ける
**確認できる事実(source claim)**として、総務省統計局の人口統計と人口移動の資料は、同じ「人口」を扱っていても観測の単位が異なる。人口統計はある時点の規模や構成を推計する窓であり、人口移動の資料は住民の移動を別の統計として捉える窓である。ここから直ちに「人が増えたから地域が豊かになった」「移動が多いから制度が効率的だ」とは言えない。分子が同じに見えても、分母、時点、登録と推計の関係が違うからだ。
出入国在留管理庁の制度資料も、在留資格、手続、受入れの条件を制度上の区分として示す。これは在留者の存在を一つの労働力指数に還元するための資料ではない。防衛省の公式資料も、装備や体制の説明を、単純な費用対効果だけでなく任務、脅威認識、継続性などの文脈に置く。少なくとも資料の分類自体が、行政の「効率」が単一の数値ではないことを示している。
## 効率は発見されるのではなく、設計される
ここから先は**方法の移植(method transfer)**である。人口推計、移動、在留制度、防衛の資料を横断して見るなら、最初に「何を最大化するか」を固定しない方がよい。たとえば、総人口、地域サービスへのアクセス、受入れ手続の予見可能性、抑止の持続性は、それぞれ別の目的関数である。目的関数を混ぜたまま順位をつけると、行政の都合で可算性だけが勝つ。
実務上は、少なくとも次の四つを別欄に置くべきだ。
1. **結果**:人口規模、移動、手続の状態、体制など、資料が直接測るもの。
2. **費用**:予算だけでなく、行政事務、住民の時間、移転や待機の負担。
3. **外部性**:第三者に転嫁される住宅、教育、医療、環境、地域安全の影響。
4. **権利と不確実性**:分類から漏れる人、データの遅れ、反事実、異議申立ての余地。
これは**編集上の解釈(editorial interpretation)**であって、各省庁がこの一枚表を採用したという主張ではない。制度設計の順番を変える提案である。データを増やす前に、誰の負担が観測されていないかを明記する。
## 反対側から見る
反方には強い理由がある。目的を細かく分ければ、緊急時の意思決定は遅くなり、比較不能な価値を並べることで責任が曖昧になる。防衛のように、発生しなかった損害を成果として数えにくい領域では、外部性を貨幣換算すること自体が誤解を生む可能性もある。また、人口や移動の統計は政策評価の一部であって、個人の価値を測るものではない。
したがって、「もっとデータを集めれば最適解が出る」という結論は出せない。過去の統計は現在の制度分類に依存し、分類を変えれば時系列比較も変わる。地域差を平均に戻せば、特定地域や少数者に集中した負担が消える。効率の数字が大きいほど、誰がその数字を拒否できるのかという統治の問題が残る。
## 分からないことを残す
**未知(unknown)**なのは、四領域を横断したときに、どの重み付けが民主的に正当化されるか、また外部性を誰がどの期間負担するかである。今回の公式資料の範囲だけから、特定の技術や経済策の優劣、将来の人口・移動・安全保障の結果を断定することはできない。
結論は人格や制度への賛否ではなく、責任の配置である。統計を作る機関は定義と限界を開示し、制度を運用する機関は受益者以外の負担を示し、政策を選ぶ側は目的関数と反対意見を公開する。効率を計算する前に、計算から外れた人と時間を記録する。その作業がなければ、数字は判断を補助する道具ではなく、判断を隠す仕切りになる。
### 参照した公式資料の範囲
– 総務省統計局「人口推計」:https://www.stat.go.jp/data/jinsui/
– 総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」:https://www.stat.go.jp/data/idou/
– 出入国在留管理庁「制度・手続」等の公式資料:https://www.moj.go.jp/isa/
– 防衛省「防衛白書・公式資料」:https://www.mod.go.jp/j/publication/wp/