介護を家族の内側へ戻さないために――住まいと働き方から見る、親密圏の細り
## 問題の置き場所
介護の困難は、家族の気持ちが冷たくなったから生じるのではない。誰かの通院、食事、排泄、見守りを、住まいと労働の仕組みがどこまで受け止められるか。その条件が狭いまま、家族だけに「支える力」を求めると、親密さは支え合いの資源であると同時に、負担を隠す場所にもなる。
2026年6月17日から9月17日までに日本の省庁が公開している介護・高齢社会・雇用関連資料を読むと、介護は医療や福祉のサービス量だけでなく、就労継続、相談窓口、地域での見守り、住まいの確保を横断する問題として現れる。ここで確認できるのは制度の課題設定であって、個々の家庭の事情や介護離職の動機を直接説明するものではない。
## 「家族がいる」と「家族が担える」は違う
総務省の就業構造に関する統計や、厚生労働省の介護離職防止・仕事と介護の両立支援に関する資料は、介護を抱える人が就労者でもあること、そして企業の制度利用だけでは十分でないことを示す材料になる。勤務先に休暇制度があっても、急な呼び出しに応じられる距離に住めなければ使いにくい。逆に、親の近くへ移れば、家賃、通勤時間、昇進機会を失うことがある。
ここでの判断は「家族の愛情が足りない」という道徳評価ではなく、住まいと仕事の配置が、ケアを誰に集中させるかを決めているということだ。親密圏は制度の外にある私的な空間ではない。住宅市場、雇用慣行、自治体の交通・相談資源によって形を変える社会的な場である。
## 親密さが負担の配分を隠す
宮台真司の過去の社会分析について、本稿が確認できるのは、出版社・公式アーカイブ等から追える問題設定の入口までである。そこから現代の介護政策について本人の現在の結論を推定することはできない。ここで行うのは「親密関係の危機を個人の性格ではなく、関係を成り立たせる社会条件から見る」という方法の移し替えである。
この方法で見ると、「家族だからできる」は、二つの意味を混ぜている。ひとつは、本人が望んで関わるという意味。もうひとつは、他の選択肢が高価で、遠く、手続きも複雑だから引き受けるという意味だ。後者を前者として語ると、負担の集中が美談になる。さらに、ケアを担う人が女性、非正規雇用者、単身者、遠距離通勤者のいずれかである場合、同じ制度でも実際の利用可能性は変わる。
## 反対側の材料も必要だ
もちろん、地域サービスや柔軟な働き方が増えれば、すべての家族関係が回復するわけではない。本人の希望、家族間の権力差、虐待や孤立、ケアを受ける側の選択は、住宅と労働の条件だけでは判断できない。また、従来の地域共同体をそのまま理想化すれば、家族規範や性別役割を強める危険もある。制度を増やすことと、当事者が安心して拒否できることは別の課題である。
したがって必要なのは、「家族に任せるか、行政に任せるか」という二択ではない。第一に、介護が始まる前から相談でき、勤務先に詳細な家族事情を開示しなくても使える支援。第二に、転居せずに利用できる在宅サービスと移動手段。第三に、介護を理由に働き方を変えた人が、後で職業上の不利益を固定されない仕組み。これらを別々の政策ではなく、生活の時間割として接続する必要がある。
## いま問うべきこと
介護をめぐる親密さの困難は、愛情の有無を測るテストではない。誰が近くに住み、誰が休め、誰が相談でき、誰が「できない」と言えるのかを問う問題である。日本の公開資料は制度の方向と課題を示すが、個々の家庭で何が起きているかまでは埋めない。次に必要なのは、自治体別の住宅・交通・相談資源と、雇用形態別の制度利用可能性を重ねた検証である。
家族の親密さを守るには、家族にさらに多くを背負わせるのではなく、背負わなくても関係を続けられる条件をつくること。その条件がどこまで整ったかは、制度の理念ではなく、介護が始まった翌日に人が仕事と住まいを失わずに済むかで測るべきだ。
### 参照した公開資料
– 厚生労働省「仕事と介護の両立支援」:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000112622.html
– 厚生労働省「介護離職ゼロ」関連資料:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000107028.html
– 総務省統計局「就業構造基本調査」:https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2022/index.html
– 内閣府「高齢社会白書」:https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/index-w.html
– 宮台真司公式アーカイブ:https://miyadaishinji.com/
– 筑摩書房『終わりなき日常を生きろ』:https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480033765/
※事実と制度資料の確認範囲は2026年6月17日〜9月17日。宮台真司の過去資料は方法上の参照に限定し、現在の立場や未確認の発言を帰属していない。